コーヒー生産における経済のグローバリゼーションの波
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外貨収入をコーヒーに頼らざるを得ない途上国の多くのコーヒー生産現場において、機械化に邪魔であるという理由で樹木が伐採され、生産高向上という名目で大量の化学肥料や農薬が投入されています。コーヒー栽培における単位面積あたりの農薬の使用量は、商品作物の中で綿、タバコについで三番目に多いといわれ、コーヒー生産における土壌汚染、水質汚染、そしてプランテーション労働者や野生生物に対する被害の例が数多く報告されています。
森林を切り開き、太陽光線をさえぎるものが何もない状態でコーヒーの単一栽培を行う"サンコーヒー:sun
coffee"と呼ばれる従来型のコーヒー栽培では、自然や生態系、野生動物、現場で働く労働者の健康に与える影響が考慮に入れられることはほとんどありません。
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1999年の11月から12月にかけて、シアトルで行われたWTO会議の開催中に繰り広げられた経済のグローバリゼーションに反対する市民の大規模デモ。"Defend
Our Forests(私たちの森を守ろう)"と書かれたバナーが掲げられている。 |
コーヒー生産の機械化に伴う大規模森林伐採、コーヒープランテーションにおけるモノカルチャー(単一樹種栽培)が引き起こす生物多様性の喪失は大きな問題になっていると同時に、そこでは一度病気や害虫が発生すると、被害が一気に拡大し、大きな損害を与える危険性があります。
それを防ぐ為に農薬が大量に使われることになるのですが、化学薬品に対する害虫の耐性化や農薬依存とモノカルチャーによるコーヒー自体の免疫力の低下により、常により多くの、そしてより毒性の強い農薬を使用しなければならない悪循環に陥る状況も聞かれます。
しかし、ポリカルチャー、つまりコーヒーだけではなく自然と一体になった複合栽培における様々な植物や多くの木々は、病気や害虫が広がるのを自然のバリアーのように防いでくれます。
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高い木の陰で守られたコーヒーの実(写真左:サンフアンシト、ホンデュラス)とコーヒーの花(写真右:カンデラリア・ショルフイツ、グアテマラ)。それぞれオレンジやバナナなどと共にコーヒーが森を構成しているのがわかります。機械化されていないコーヒー生産においてはこのように多種多様な植物が共生しており、豊かな自然環境と生態系を守りながら栽培されていることが多いといえます。 |
フェアトレードコーヒーに見られるように日陰栽培のような伝統的な農法によって行われる作物生産は、豊かな自然環境を保全し野生生物に住処を提供するばかりでなく、バナナやオレンジなどの果物、アボガドやプラタナス、豆類などの食料をも提供し、現地の人々の食卓をにぎわせてくれます。またコミュニティ内の市場で販売して副収入を得ることによって、家計を支えることにも繋がります。 |
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森に囲まれたコーヒーコミュニティのマーケットの様子
カンデラリア・ショルフイツ グラテマラ |
途上国の多くのコーヒー生産地では薪が生活必需品になっていますが、それもコーヒーの森から手に入れることができます。
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(写真左)コーヒーの収穫と収穫の間、コーヒーの森から木を切り出すコーヒー生産者、ロランドとその家族。ここの協同組合では組合員が協力して木の切り出しなどコミュニティ内での活動を行っています。 |
カンデラリア・ショルフイツ グアテマラ
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(写真右)家族でコーヒーの欠陥豆の除去を行う。後ろはコーヒー農園。バナナやアボガドなどがコーヒーと共生しています。手前の生産者はコーヒー農園から切り出した木を薪にしているところです。豊かなコーヒーの森が生産者に様々な形で恩恵を与えていることがわかります。 |
セゴビア県サンルーカス地区 ニカラグア
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森と共に歩んでいく伝統的なコーヒー栽培は、森林の伐採を食い止める大きな存在になっていると言えます。中米の幾つかの国では現存している熱帯林の多くの割合をアグロフォレストリー型のコーヒーのエリアで占められていると言われており、エルサルバドルでは残っている森林エリアの60%をコーヒー栽培と森が共生した地域が占めています。このように伝統的なコーヒー栽培は熱帯林を守る最後の砦の一つであるということができるでしょう。
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豊かな森の中で咲くコーヒーの花。この時期、あたりはコーヒーの花の香りが立ち込めますが、花の命は短く一週間もすれば散ってしまいます。 |
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花が散り始めるころには、緑のコーヒーの実が膨らみ始め、熟していくにしたがって、赤くなってゆきます。
カンデラリア・ショルフイツ グアテマラ
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フェアトレードは途上国における多くの農業従事者が経済的自立を達成するための大きな手段の一つであると同時に、現在私たちの見えないところで、急速に進んでいる森林破壊や環境汚染を食い止める防波堤の一つと成りえるのです。